DMOとして活動するために求められていることと、その課題
具体的な戦略の前に、DMOとして活動するために求められていることと、何が課題となっているかをみていきたいと思います。
先の観光庁の資料によると、
- データの継続的な収集、戦略の策定、KPIの設定・PDCAサイクルの確立が求められるとあります。
- 観光消費額、延べ宿泊者数、満足度、リピーター率の4項目はKPIとして必須とされています。
- さらに、「PDCAサイクル導入による自己評価」を少なくとも年1回実施し、結果を観光庁に報告する必要があるとなっています。
これらの要求は既存の組織にとってどのあたりが難しいのでしょうか? 資料内では、データの収集・分析が不十分だったと指摘されています。 特に分析面では観光客のターゲティングがされていないことを取り上げています。
基礎的なデータについては収集しているところも多いでしょう。 しかし戦略に必要となる詳細なデータや、よりつっこんだ分析については、DMO単体で遂行するのは難しいのではないでしょうか?
例えば、入れ込み客数(地域内の宿泊施設の宿泊者データ)は取得している所が多いと思われます。 ところがさらに踏み込んで、入れ込み客による経済効果がどのぐらいあったのかを知りたいとなった場合、 それを把握するためには、誰が何にどれくらい使ったかについてサンプル調査が必要になります。 こうした調査ノウハウが不足しているのが現状ではないでしょうか。
DMO政策の概要
観光関連の政策について学んだことをまとめていきます。
DMOとは、「Destination Marketing (Management) Organization」の略です。
官公庁のサイト日本版DMOによると下記のような組織のようです。
日本版DMOは、地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人です。 このため、日本版DMOが必ず実施する基礎的な役割・機能(観光地域マーケティング・マネジメント)としては、 (1) 日本版DMOを中心として観光地域づくりを行うことについての多様な関係者の合意形成 (2) 各種データ等の継続的な収集・分析、データに基づく明確なコンセプトに基づいた戦略(ブランディング)の策定、KPIの設定・PDCAサイクルの確立 (3) 関係者が実施する観光関連事業と戦略の整合性に関する調整・仕組み作り、プロモーション が挙げられます。 また、地域の官民の関係者との効果的な役割分担をした上で、例えば、着地型旅行商品の造成・販売やランドオペレーター業務の実施など地域の実情に応じて、日本版DMOが観光地域づくりの一主体として個別事業を実施することも考えられます。
出典) www.mlit.go.jp
一般に観光地の観光振興を担う組織としてその地域名を冠した「◯◯観光協会」がありますが、そういった観光協会とはどう違うのでしょうか。
wikipediaによると観光協会には下記のように、公的な性質を持つ法人形態が多いみたいです。
公益的な団体である。都道府県と観光地を擁するの市の観光協会については、ほとんどが社団法人又は財団法人という法人形態をとっている。町村の観光協会のほとんどは法人化はおこなっておらず、任意団体の形態をとっている。小規模ながらも活動的な観光協会のなかには、特定非営利活動法人に移行するところもある。
出典) 観光協会 - Wikipedia
しかし、DMOでは着地型旅行商品の造成・販売とあるように、旅行業商品の販売をも視野に入れて、事業継続性を重視した営利法人として期待をしているようです。
これは、従来の旅行代理店のような観光協会と密接な関係の事業者の事業領域と重複する部分があるので、場合によっては調整は難しいところかもしれません。
それに加えて、気になるところは「地域住民」の連携が謳われているところですね。 今までの観光協会で一般の住民が連携するイメージがなかったことと比べると期待が持てます。
さらに言えば、営利事業としての戦略の明確化・データ重視といったことも重要や役割として指摘されるかもしれません。
こちらの観光着誘致のためのDestinationMarketing(着地マーケティングとでも訳すのでしょうか。)戦略をどのように立案していくのか次回のエントリにまとめましょう。
参考資料)
攻城団ブログさんの記事です。城をテーマにした着地型観光をすすめる団体のようです。面白そう。
この資料は2013年といささか古いですが、ある程度客観的にDMO政策の概要をつかむには良いと思います。
http://www.mlit.go.jp/common/001110766.pdf:日本版DMO形成・確立の必要性(観光庁)
観光庁発表の基本的な資料です。
Code for 観光データの目指しているもの
こんにちは。 Code for 観光データを作りたいと思っている佐藤です。なぜ観光データに特化したシビックテックを目指しているか。ということについて書きました。
旅行・観光の消費スタイルが多様化していく中で、改めて各地域独自の文化や体験といった、これまでやや軽視されてきた新しい切り口の地域資源の存在に注目が集まっています。ですが、殆どの地域ではそれらの資源のマーケティング視点の欠如によって休眠しています。
一方で、観光振興政策としては、新たにDMO組織の設立・支援が国策で進められています。DMOでは独自性と収益性=継続性の求められている観光振興を地域の総意で進められていくことが期待されています。つまり、既存の自治体と宿泊施設団体が中心だったスタイルではなく、地域商店街や住民参加視点といった多様性が重要というわけです。これらの地域参加の一つのあり方として、シビックテックが機能する可能性があると思います。
特に、DMOの推進には、KPIの策定とPDCAサイクルの推進が重要な要素とされていて、各種オープンデータや公開統計データ、自治体の実施している各種調査データの横断的な活用が求められています。また、これらの活用が可能なマーケティング・ITスキル人材が各地域で求められていますが、既存の観光分野の人材像とのミスマッチがあるため、人材供給ニーズが強いとされます。この点からすると、DMOにおける民間人材の供給ニーズに対応した、コーボレートフェローシップが適合するかもしれません。
また、DMOのマネジメントには最新のテクノロジーとその理解が不可欠です。例えば、オープンデータなどの地域データを活用してKPIを構成するためのデータ処理や、域内流動や旅行客に対するスマホアプリの提供、さらに入込客の満足度計測における調査アプリの設計などがすぐに思いつきます。これらの課題は各地域で共通に存在する課題であり、Code for 活動を通じてこれらの情報処理ニーズに対するコア的処理をオープンなライブラリとして提供することは、社会的ニーズがありそうです。
Code for 活動として提供することの価値の一つは、これらのITのニーズとサプライが地産地消されることで、目指した行きたい方向性の一つです。IT産業はその性質として大都市部で発達しやすい側面がありますが、地域の総意で進められるべき観光産業の振興に用いられる技術には、当該地域のIT産業のプレイヤーが関与するほうが望ましいと考えます。そこで、各地域で既に展開している地域ブリゲイドとの連携を目指しつつ、観光データに特化したトピック型Code for 活動ができたら素晴らしいと考えます。